ちゃらんぽらん日記

日々のあれこれ

まなざし

 「お客さまのニーズが」と語る人の顔が目の前にいる私の方を向くことは一度もなかった。彼がひとりで話し続けるのを聞きながら、時折挟む私の相槌や言葉は彼にはまったく届いていないのだろうと思った。脳内で思い描いていることと現実とが乖離していることに気づいていないのだろうかと私は考えながら、私も同じようなことをしがちだと省みていた。彼の腕は確かだと感じた。職人気質なのだろうか。概念的にニーズを語るのではなく、目の前の私の表情を見て言葉を聞いてくれたらいいのにと思った。でも同時にきっと彼には私には見えないものが見えていて、それにいい意味で憑りつかれているからこうなってしまうんだろうなと彼が見ている世界の存在を感じはした。人と人が心を通わすことの奇跡を思いながら、でもどんな人にも寄り添ったり時折そっと側にいることはできそうだとも考えていた。