ちゃらんぽらん日記

日々のあれこれ

許すことは許されること

 人は子どもを育てることで育ち直すと言う。自分がいちばん愛された記憶の空白を、自分が子育てすることではじめて埋めることができるのだと。

 私はこの世でいちばん愛しいぬくもりを感じながら、こんな風に愛されることのなかった元配偶者のことを思った。こんな風に愛する機会さえも奪われてしまった彼を思った。奪ったのは私だ。もしかしたら私が悪かったのかもしれないし、誰も悪くなかったのかもしれない。

 彼を愛した数年間は彼に言葉が届かないことに絶望した数年間でもあった。そして私はいつしかその原因を彼の母親に求めるようになった。

 母親は19歳のときに彼を産んだ。彼が生まれて間もなく、母親と父親は離婚した。母親は彼のことを「可愛いと思ったことなんてなかった。」と度々話した。

 私は何度となく、幼かった彼の心を想像し、心を痛めた。彼にそんな思いをさせた母親を何度となく憎んだ。ドアの外に締め出されて、泣き声さえも聞き届けてもらえなかった彼の心はどんな絶望を味わったのだろう。それを思うと、憎しみしか浮かばなかった。

 ふと、この子が彼で、私が母親だったなら、と考えた。もしもこの子にまったく愛情を感じられなかったなら。

 頬に、冷たいものを感じた。できることなら、幼かった彼と、彼を愛せなかった母親と、ふたりを優しく抱きしめてあげたい、と思った。

 きっと、誰も悪くなかった。ただみんな、愛されたい子どもだったのだ。